日本助産診断実践学会 学会概要
日本助産診断実践学会(Japan Society of Diagnosis Practice for Midwives: JSDPM, 以下本会)は2018年に設立し,2020年で3年目となるまだ新しい学会ですが,その前身は20年以上前から活動をしてきた「日本助産診断・実践研究会」です。この研究会が発足した1997年当時「診断」という言葉は医師のみが使用していた時代でした。1960年以降の施設内分娩の増加を背景に,医師の診断の下に活動する勤務助産婦が助産師の大半を占めるようになりました。そのような中,1990年のカリキュラム改正で初めて助産婦教育課程の中に助産診断学が登場しました。産科学的診断と共に妊産婦や家族の生活に目を向け,妊産婦が満足できる妊娠・分娩・育児が行えるようケアをするという助産師の実践を示す助産診断の教育が重要となってきたのです。
助産診断は言うまでもなく,助産ケアの根拠となるものです。先に述べたように現在は勤務助産師が助産師全体の大半を占めていますが,主に助産師が対象としている妊娠期・分娩期・産褥期・新生児期にある女性と子どもに対して.出産施設だけではなく,出産施設から家庭へ移行する際の支援が今.見直されています。2019年12月6日には「母子保健法の一部を改正する法律」が公布され,出産後1年以内に母子の心身の状態に応じた保健指琳や相談を行う「産後ケア」が,市町村の努力義務となりました。市町村には「妊娠期から出産後に至る支援を切れ目なく行う」という観点から,「妊産婦及び乳児に対する支援の一体的な実施その他の措置を講ずるよう努めなければならない」と定められました。この支援には助産師のみならず.産科医師,小児科医師,保健師,看護師臨床心理士,社会福祉士等多職種で連携することが重要と考えます。幅広い分野での共通言語として助産診断を活用できることが.今後の連携において期待されます。
もともと女性を中心にその家庭・家族と密接に関わってきた助産師が,現代の周産期医療の現状を熟知した上で,医療と家庭生活と養育についてリードしていくことが社会から求められるのではないでしょうか。本会は,「助産診断に関する学術的研究の向上及び臨床実践への応用の推進と会員相互の知識の交流を図り,もって助産活動の発展とその対象である女性と家族の幸福に寄与することを目的とする」としています。実際に母子のケアに携わる助産師と,学術的・研究的に助産実践に取り組む助産師が本会を通して交流し,知識と(臨床)実践の融合に結び付くことが結果,今後の日本の社会に貢献していくものと思っています。
臨床における助産診断「助産診断」と聞くと,学生時代に勉強したもの,教員や学生が使うものと感じられる助産師も多いのではないかと思います。一方で,診断は患者に使用されるものであり,学生が患者をアセスメントするツールではないということも理解はされていると思います。
では,なぜ助産師になると助産診断が縁遠い存在になってしまうのでしょうか。簡単に言ってしまえば,医療施設の中では産科学的診断のみでもその責務は果たせるから,もしくは,経験のある助産師は助産診断を言葉に出さずとも診断し,実践しているからだと思います。
しかし,今,社会のニーズは「切れ目ない支援」です。私たちは助産診断を共通言語としてへの切れ目ない支援に一石を投じられるのではないかと思っています。広辞苑に新語が入るように,言葉は使う人がいることにより定着していきます。本来対象者のためにある助産診断が机上のものだけに終わらず,実際に使用して,多くの人とつながっていくことができて初めて,診断としての意味が出てきます。実際に母子に携わっている助産師が、より助産師としての役割を果たすためにも,助産診断を活用していくことが大切なのではないかと思います。
助産診断のバイプルとも言える『マタニティ診断ガイドブック』を学生時代に活用されていた方も多いと思いますが,実際に母子のケアに活用し,助産師としての診断をもっと確立していきたいと思います。
「助産雑誌」日本助産診断実践学会の紹介:中嶋彩・高橋愛美・齋藤益子
2020年vol.74 no.7 p530-531より